| 《進め若く新たに》
一九九一〜二〇〇〇年 平成三年〜平成十二年
創立六十周年をむかえた一九九一年の総会において、これまで座は「前進座住宅株式会社」と、「株式会社前進座」の二つの会社によって運営されてきたが、これを一本化して九二年「劇団前進座株式会社」とした。芸術面では、前進座歌舞伎の確立、新作の創造、さらには女優活躍の場の拡大など積極的な劇団活動を展開していった。
こうして、創造面、運営面における座の事業を第二世代が確実に引きつぎ、第三世代と力を合わせて新しい歴史を歩みはじめた。この五年間の成果はおよそ次のようなものであった。
恒例の五月国立大劇場公演では、創立者たちの念願であった近松の『平家女護嶋』の通し上演を初演いらい二百七十一年ぶりに復活上演、黙阿弥没後百年を記念し『四千両小判梅葉』、近松の『博多小女郎浪枕』、黙阿弥の散切狂言の代表作、『島千鳥―島鵆月白浪』を第三世代の邦次郎、梅雀がつとめ、梅之助、芳三郎、圭史がささえた。そして『隅田川続俤―法界坊』と五作の通し上演があり、国立劇場初出演いらい通し狂言は十三作をかぞえ、また宇野信夫三回忌追善公演として初演された『巷談宵宮雨』をはじめ、『鳴神』『一本刀土俵入』ほか三本の再演があった。
創作劇の初演では、知覧の特攻基地を描いた、神坂次郎原作『今日われ生きてあり』、座と初顔合わのジェームス三木作・演出『煙が目にしみる』、小林多喜二を新しい面でとらえた三浦綾子原作、いまむらいづみ主演『母』、座のために書き下ろされた、五木寛之の処女戯曲『蓮如―われ深き淵より』、アイヌ神話の叙事詩、鈴木龍男作『風のユーカラ』、子どものための創作歌舞伎=w牛若丸』、宮沢賢治原作、如月小春脚本『月夜のサンタマリア』、児童絵本作家いわむらかずお原作・脚本・美術による『トガリ山のぼうけん―生きものたちの森』の青少年劇場など十作であった。
さらに、大垣肇作『遠来の客』『素襖落』『三社祭』『釣女』などの舞踊の初演もあった。これに村山知義作『初恋』、など、再演を加えると、この五年間にとりくんだ演目は五十五作品におよんだ。『怒る富士』の第三次全国巡演は、ICA(国際協同組合同盟)東京大会プレ文化企画として実に一八四ステージのロングラン公演となり、その舞台内容が世相と重なり各地に大きな共感と反響をもたらした。そして真船豊作『鼬』、木庭久美子作『父が帰る家』、女優による『雪祭五人三番叟』などの上演があり、日頃の女優陣の意欲と精進が実った。
これらの活動の中に、九一年『煙が目にしみる』の梅雀の演技、九二年『怒る富士』の圭史の演技、九三年『一本刀土俵入』の舞台成果など、文化庁芸術祭賞連続の授賞があった。『四千両小判梅葉』の富蔵、『魚屋宗五郎』の宗五郎の梅之助の演技に第十四回松尾芸能賞演劇優秀賞、『蛍』お登勢のいづみの演技に九四年度名古屋ペンクラブ賞が贈られた。
また、他座出演では、九四年四月大阪新歌舞伎座公演『風花の峠』に梅之助、いづみ他九名が出演し、テレビでは九五年のNHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』で家重役の梅雀が、一躍茶の間の人気を獲得した。映画でも、にっかつの大作『落陽』に梅之助、圭史、鶴蔵、志村、松浦、梅雀らが主要な役で出演した。
前進座劇場は開場十周年をむかえ、九二年二月その祝賀会が同劇場で開かれた。また、この年の十二月新橋演舞場岡副昭吾社長のご好意により、水谷良重、西村晃、金田龍之介、松山政路、長谷川稀世らの特別参加と新派の皆さんの助演を得て、翫右衛門を偲ぶ特別公演≠ェ新橋演舞場で実現し、『巷談本牧亭』で梅之助が桃川燕雄をつとめた。
創立六十五周年記念公演は京都南座で開幕した。九〇年三月からの南座大改装工事にともない、座は六年間、舞台を祇園甲部歌舞練場に移していた。この公演が新装南座の復帰第一回となった。
また、五月国立劇場公演は、いづみほか女優陣が活躍する異色の逍遥作品『大いに笑ふ淀君』、そして久びさの『勧進帳』を弁慶・富樫・義経・四天王・番卒の各役を、矢之輔、梅雀、市太郎他が初役で挑み、二番目は梅之助の『左の腕』に芳三郎、圭史、邦次郎、文美らが初役にとりくんだ。
秋の中座、中日劇場公演は『左の腕』に、神坂次郎原作の新作喜劇『花咲ける武士道』と芳三郎構成・振付による舞踊『夕涼空住吉―かっぽれ』であった。その公演の直前八月二十二日、芳三郎は『左の腕』の読みあわせ稽古の後、自宅で倒れ直ちに病院にはこばれたが、ついに不帰の人となった。奇しくも六十一歳の誕生日当日のことであった。国太郎亡きあと、女形の中心であった芳三郎を失ったことは大きな衝撃であった。座は芳三郎の功績にたいし功労座員に列した。
『左の腕』の松葉屋女主人おあさの役は急遽山村邦次郎が勤めた。
九七年の座総会で「現在を第三の創立期と認識し、来たるべき二十一世紀の幕開きの年にあたる創立七〇周年にむけて一層の団結と努力を結集する」ことを目標にした。前進座劇場開場十五周年記念公演は、山本周五郎『地蔵―イカサマ地蔵騒動譚』、ジェームス三木『戦国武士の有給休暇』の新作二本を上演、五月国立大劇場公演では『鳴神』と五十年ぶりの『ベニスの商人』、
全国巡演では、四十年ぶりの再演『二十二夜待ち』『鳴神』、『勧進帳』『芝浜の革財布』に『操三番叟』『雪祭五人三番叟』などの舞踊演目をくわえ、どれも新しい配役での上演であった。
『ベニスの商人』は坪内博士の功績を記念する、第四回坪内逍遥大賞、またNHK『いのちの事件簿』出演で梅雀がギャラクシー賞を受賞した。
翌九八年の総会では「第三世代は今や当代である」という自覚のもとに次代の荷い手たちが創立の初心≠自らのものとし創造的力量を高め、座外との交流、協力も得ながら、ひろく前進座を世に知らしめ、劇団員の生活をまもり向上させていくことを確認した。
二十一世紀にむけて、座の発展のためにという深いご理解のもとに、河原崎長一郎、故河原崎権十郎、市川宗家團十郎、松竹永山会長方々の、お力により嵐市太郎の六代目河原崎國太郎襲名が実現した。創立者の名前が復活することは座にとって大きな喜びであった。襲名披露狂言の『お染めの七役―お染久松色読販』では、先代国太郎から教えをうけた坂東玉三郎氏、また中村
福助氏がよろこんで指導にあたってくれた。
また『たいこどんどん』『三人吉三巴白浪』と当代中心の舞台の成功など、十指をこえる作品での活躍、ひきつづく梅雀のテレビと他劇場出演での奮闘などの実りがあった。さらに、九八年度都民芸術フェスティバル参加、日本劇団協議会主催、前進座制作による加藤周一書きおろし初戯曲『消えた版木―富永仲基異聞』は各劇団の参加による多彩な顔ぶれで話題をよんだ。また子供のための創作歌舞伎¢謫弾として『土蜘蛛退治』、女優による舞踊『晒三番叟』の新作三本を生み、『蓮如』は三年がかりの全国縦断を打ちあげた。
この年の十月「矢の会三十周年の集い」が開かれ、会の三十年の歩みをふり返るとともに、さらに会を発展させますます劇団を応援していただくことになった。
九九年は、十四の演目にとりくみ、そのうち十二作品に当代が主演・準主演するなど成長をみせた。「梅之助舞台生活六十年」を記念した五月国立劇場での座の代表演目に、綱豊の圭史、富森の梅雀に、矢之輔、邦次郎、國太郎らが初役に挑んだ『御浜御殿綱豊卿』『魚屋宗五郎』の成果は特筆すべきものがあった。また、演出をあらたにした『女殺油地獄』『赤ひげ』の再創造は、今日の世相と通じるテーマをもった作品として好感をもって各地で迎えられ、ロングラン公演への可能性をうみだした。八月には女優のなかからの自主的な発案で、有志による《花みづきの会》公演が実現し、第一回公演は岸田國士作『葉桜』、三好十郎作『噛みついた娘』の二本立てだった。この作品は翌年九月公演でとりあげられ、花みづきの会第二回公演は、松本清張原作、新人鈴木幹二の処女作『或る小倉日記伝』が上演された。
創立七十周年を翌年にひかえた二〇〇〇年は、木下順二作『狐山伏』、舞踊『うかれ坊主』の二本の初演に、二十一年ぶりの『おれの足音』を梅雀、矢之輔を中心に、また歌舞伎再検討で話題を呼んだ『五大力恋緘』を四十一年ぶりに上演した。さらに『一本刀土俵入』は五月国立劇場、大阪は十一年ぶりの出演となった国立文楽劇場、つづいての巡演の間に、邦次郎、國太郎、二人のお蔦≠うみ出すなど、俳優、スタッフともに着実な前進をみせた。
十月十六日、山村邦次郎が七世瀬川菊之丞を襲名することになった。名跡領り人、岩井紫若氏の是非座の俳優に継いで欲しいとのありがたい御意志で、二四年ぶりに再び座に生きることになった。本人は勿論座にとっても大きな激励であり喜びである。七〇周年国立劇場公演で披露される。十一月前進座劇場『おれの足音』、そして『赤ひげ』と二班が巡演し、二〇〇〇年を締めくくられた。
テレビでは、NHK大河ドラマ『葵―徳川三代』の水戸光國で梅雀が出演、映画では『釣りバカ日誌』で梅之助、梅雀、『すずらん』では梅之助、舞台では地人会公演『藪原検校』に広也が主演、十一月御園座『三味線やくざ』に河原崎國太郎ほかが出演するなど外部出演はさらに広がっていく。
この年の三月、「古典劇と現代劇を演じうる俳優・演出家の養成、演技術の開発をめざして、七〇年設立以来二十一期まで活動をつづけてきた前進座附属養成所の功績に対し」第八回<山本安英の会>記念基金を戴いたことは創立七十周年を機に養生所再開にむけて大きな励みとなった。
この十年は、宮川雅青、岩五郎、公三郎、島二郎の創立以来の先輩が全て他界され、坂東太三郎、今村京路、津金実、松本隆と第二世代の人々も亡くなっている。
いよいよ二〇〇一年創立七〇周年である、初春南座公演から開幕である『御浜御殿綱豊卿』『口上』『魚屋宗五郎』前進座劇場いわむらかずお作『かんがえるカエルくん』三月神坂次郎作『およどん盛衰記』(南方熊楠と女中たち)五月国立劇場藤沢周平作『臍曲り新左』『口上』『菅原伝授手習鑑・寺子屋』六月大阪松竹座初出演『おれの足音』。
九月名古屋中日劇場、十月前進座劇場、そして全国巡演と、創立以来の理念と民主的運営、全国の皆様の御支援に確信を持って、代表作と創作に意欲的に取組み、新しい歴史を積み重ねて前進が始まるのである。
|